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3.贄
翌日出社して階段を上っていると腰にズキリと痛みが走る。悪夢のせいで変な寝方でもしていたのだろうか。重い足取りで自席に着くとパソコンを起動した。
(あれ?)
何だか文字が霞んで見える。腰に手を添えつつ画面に顔を近づける私を見て加藤が声を掛けてきた。
「早坂先輩、どうされました?」
何でもないわよ、と言おうとした瞬間、胸に鋭い痛みが走る。
「ぐっ」
胸を押さえて呻く私を見て課長も声を掛けてきた。
「おい、早坂、大丈夫か」
「心臓、ですか? 救急車呼びましょうか」
加藤の言葉に眉を顰める。救急車ですって?
「だ、大丈夫よ」
だが言葉とは裏腹に胸の痛みは激しくなっていく。
「課長、救急車呼びましょう! ちゃんと検査した方がいいですよ。必要なら入院も……」
入院ですって? 入院すればいいのはあんたの方よ、加藤。
「ああ、わかった。誰か119番を」
次第に遠のく意識の中で昨日の出来事を思い出す。私が黒い折り鶴を拾った時、彼らは何て言ってた?
“最近どうにも腰が痛くてねぇ”
“最近ずいぶん老眼が進んでしまってのぉ”
嗚呼、私は一体あの村で何を拾ってしまったというのだろう。最後の少女は何て言ったいた? 確か……。
“私心臓が悪くてこのままだと死んじゃうの”
村人たちの声が頭の中でこだまする。
――拾ってくれてありがとう。
完
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