1.最悪な一日

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1.最悪な一日

 今日は朝からついていなかった。いつも乗る電車が事故の影響で遅延し、ただでさえ満員の電車がさらにぎゅうぎゅう詰め。しかも隣の女が私の足を思いっきり踏んできた。睨みつけてやろうにも顔も動かせない。電車を降りてから見てみるとこの前買ったばかりのパンプスにピンヒールで踏まれた跡がくっきりとついていた。 ――最悪だ。  出社して化粧室に入り鏡の中の自分を見てため息をつく。 (最近寝不足で化粧ノリが悪いな。これじゃ彼氏もできないわね。来月はクリスマスと誕生日が待ってるっていうのに)  来月の誕生日でいよいよ三十歳。社内のシステム部門に所属する私は毎日残業続きで結婚どころかここ数年恋人もいない。 「あ、早坂、今日の会議時間変更な」  自席に着くとすぐに課長から声を掛けられる。 「あ、はい。何時ですか?」 「14時の予定だったが13時半に変更だ」 「わかりました」  思わず気合が入る。今日の会議は新しいプロジェクトのメンバーを決めるためのものだ。 (この前営業の金村(かなむら)君が取ってきたこのプロジェクト、絶対メンバーに入りたい)  この新規案件は会社にとって重要なものでそのメンバーに選ばれるというのは出世にもつながる。それにこの案件を取ってきた営業の金村君というのは私が密かに好意を抱いている男性でもあった。プロジェクトメンバーになれば彼と話す機会も増えるに違いない。 (大丈夫。システム部門で今動けるのは私ぐらいのはずだから)  おそらく指名されるであろうシステム部門の人間は三人。主力メンバー四人のうち二人は動けないはずだからそれ以外のシステム担当で今動けるのは私と新卒で入ってきた加藤という使えない女の二人だけ。さすがに大事なプロジェクトにその女を回すことはないだろう。私は期待を胸に会議室に向かった。 「ではメンバーを発表する。営業は無論引き続き金村君に担当してもらう。それからシステム担当として三人。佐藤と中島、あと……」  私はごくりと唾を飲み込み自分の名前が呼ばれるのを待つ。
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