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昭和の雰囲気が色濃く残る故郷の商店街を、俺は何かを確かめるようにゆっくりと歩いていた。
八百屋、魚屋、肉屋、揚げ物屋、散髪屋……見覚えのある商店街の店々が、夕日に照らされて、店頭が一様に茜色に染まっていた。まるで映画のワンシーンのようだ。
ただ人の姿が見えないのが少々寂しいが。
1週間前、ここに着いた時と何も変わっていない。このノスタルジックな光景は永遠に続くのだろうか。
「冗談じゃないぜ……」
思わず口から言葉がこぼれた。
俺はポケットからピストルを取り出した。ここに来る途中で、交番で机に突っ伏して亡くなっていた警官のを頂いたのだ。ちなみにその若い警官は頭を撃っていた。
食料がもうない。最後に道の真ん中に大の字になって寝てみた。
空に茜色に輝く綿雲が、東から西へ歩くような速さで移動している。
「1……2……3……」
何とはなしに雲の数を数えた。そうだ、10で引き金を引こう。
俺はピストルをこめかみに当てた。
昼と夜が交代しなくなってもう3か月。そう、地球の自転が止まったのだ。
夜のエリアの大国は昼のエリアの国々を攻め、やがてミサイルの打ち込み合いとなり、人類は爆発と放射線の影響で9割以上が死んだ。
俺は最後に、故郷の大好きだったこの夕焼けの商店街を見たくて、自転車で1か月かけて戻って来たのだ。もう思い残すことはない。
「4……5……6……」
カウントダウンを続ける。
ゴゴゴ……急に空が暗くなった。真上の空はあっという間に黒い雲で覆われ始めた。
苦笑いした。
地球の自転が止まっても、天気は常に変化している。いつも夕焼けとは限らないのだ。
「最後ぐらいは夕焼けの下で死なせてくれよ」
俺は恨めしそうな顔して空に向かって一発撃つと、まだ熱い銃口をこめかみから少し離して構えると、引き金を引いた。
同時に雷鳴が轟き、町が急速に夜の闇に引き込まれて行く。
自転が再開したようだ。ただし今度は高速で。
何が起こっているのか、知る由もないが、もうどうでもいいことだ……。
(終)
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