魔法使いになりたい

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 むくりと上体を起こし、周りを見回す。 「広くてきれいなところ……」  ピクニックにやってきた子供のような気持ちで、素直な声を漏らす。見渡す限りの大草原。地平線の彼方まで広がった緑は、その先で雲と青空に溶け込んでいる。  ここはどこだろうか。ううん、どこでもいいや。もとのあの世界じゃなければどこでもいい。ただそう思った。  それにしても気持ちのいいところ。さんさんと降りそそぐ太陽が、優しく頬を温める。心地よい風が草原を駆け抜け、清々しい若草の匂いを運んでくる。風に揺れる葉の音が、さらさらとわたしの耳をくすぐる。  とても素敵。わたしは立ち上がって伸びをする。 「う~ん……」  深呼吸して、胸いっぱいに大自然の空気を吸い込む。伸びをした手をおろす。さっきまで地べたに寝そべっていたこともあり、反射的にお尻のあたりを軽く手で払う。 「え?」  ふと下を向く。 「ちょっとまって! なにこれ、やだぁ!!」  とんでもないことに気がついて、思わずしゃがみ込む。しんじられない。 「嘘ぉ!! なんで、裸なの??」  改めて周りを見回すが、見渡す限り誰もいない。大自然に一人ぼっちだ。誰にも見られていないのは良しとして、それにしても裸はなんかまずい……。というか、イヤだ。何か心もとないし、抵抗がある。  しゃがみ込んだお尻に、若葉がサラサラとあたり、ちょっとチクチクする。思わず腰を浮かして中腰になり、そのまま旋回するようにあたりを伺う。四方八方広がる草原は、身を隠すところすらない。このまま、うずくまるように移動するしかないのだろうか。 「なんか、服っぽいもの。せめて布切れでもいいからないの?」  ひとり呟きながら、呑気にそよそよとなびく若葉を恨めしく睨みつける。 「葉っぱで隠せって? それはないでしょ? むむむ……」  ちょっと真剣に足元の葉を見てみるが、隠せそうな形や大きさのものは無い。 「……」  草原にうずくまったまましばし考える。大自然の素晴らしさに思わず我を忘れていたものの、いったいこの状況は何なのだ。目覚める前に聞こえていた、あの声はいったい何だったのか。
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