魔法使いになりたい

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 異なる世界……。……異世界……。  現実味のない言葉に、しばらくの間思考が彷徨った。しかし、すぐさま現実的かつ消極的な考えが怒涛の如く押し寄せる。  見知らぬ世界で、25歳の女が一人。文字通りの裸一貫……。  ありえない……。絶望的すぎる。  右も左も分からない世界で、自力で学べと……。無理だ。とても一人で生きていけるとは思えない。ならば、ゼロから人間関係を築けと……。嫌だ。絶対。それだけは。もう人とは関わりたくない。二度と社会のしがらみに巻き込まれたくない。あの社会にどっぷりと浸かってしまったわたしは、そこから逃げ出す方法すら見出せなかった。だから……。  ……だから、わたしは選んだのだ。あの世界から離れるんだと……。  思わず潤みだした瞳を見開いて、涙が溢れるのをグッと堪える。視界に映る鮮やかな大自然は、わたしを包み込むようにキラキラと輝いている。それはまるで、この世界がわたしを受け入れ、歓迎してくれているかのようだった。  膝を抱えてうずくまっていたわたしは、背筋を伸ばす。鼻水を啜り、空を見上げる。  もうわたしを苦しめていた、しがらみはないんだ……。この世界なら。なんとか、やっていけるかもしれない……。  少し前向きになってきたわたしの頭に、ほんわりとしたあの声がよみがえる……。 「あ……。そうだ。魔法……」  思わずつぶやいたものの。ほんわりと聞こえたあの声は、いったい何だったのか。まさか、あんな望みを聞きれてくれたとでもいうのだろうか。  わたしは、魔法が使える?  何やら信じがたいし、使い方も分からない。 「うーん」  草原の真ん中で、裸でしゃがんで唸る女が一人。25歳。いったい何をしているのか。絵的にも不味い状態だ。このままじっとしていても、埒があかない。こまった。こまったけれど。もうやけだ……。 「シュルリラー。きれいなお洋服!」  言っておきながら、バカかわたしは? と思ったその瞬間。  ポンッ……  微かな煙エフェクトと共に、体のまわりがほんのりきらめいた。
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