魔法使いになりたい

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「わぁ。素敵……」  思わず声が弾む。ふりふりのドレスのような衣装に身を包まれている。  唱える瞬間、きれいなお洋服をイメージした。魔法なだけに、魔法少女のような……。確かにそのイメージ通りなのだけど、何でこんなイメージをしてしまったのか。ちょっと自分でも疑問に思う。そもそも似合っているわけがない。わたしは25歳だ。でも、こんなもの着てどんな見た目なのか、ものすごく気になる。 「鏡なんて……。あるわけないわよね……」  恥ずかしさはあるものの、興味はある。きょろきょろと周りを確認しつつ、取り敢えず体を隠すことができたので、背筋を伸ばして立ちあがる。  ……そうだ。鏡を魔法で出せばいいんだ。 「えいっ! じゃなかった。呪文呪文……。シュルリラー、等身大くらいの鏡!」  ボフッ……  ところで、シュルリラーって何……。と思うわたしの目の前に、さっきと同じような光と煙のエフェクトが。何だか安っぽい効果だが、その中に何かが現れた。現れたのは、白い縁の大きな鏡。等身大くらいの姿見だ。大草原に似つかわしくない、現代的な格調の。それはまるで、〇トリか、〇ケアで買ってきたような……。  まあ、わたしがイメージしたものだからそんなもんでしょう。と思いつつ覗きこんだ鏡には、予想外のわたしの姿が映っていた。 「うわぁ~。かわいい……」  鏡に映ったその姿に、思わず声が漏れた。  鏡の中には、とても可愛らしい少女が映っている。小柄な少女。もともと小柄で童顔であることは自覚していたが、鏡に映っているのは自分とは思えないほどの幼い少女だ。見た目的に中学生、13才くらいの少女。そんな少女が、キラキラとしたピンク色の髪の毛をツインテールにまとめ、大きめの黄色いリボンを付けている。そしてセーラー服をアレンジしたような上着と、フリルの付いたミニスカート。ハイソックス、赤い靴。心なしか小顔になった気もする。もとのわたしの面影は多少あるものの、盛り過ぎなほどに補正されている。ぱっちりとして、くりくりとした目の瞳はブルー。長いまつ毛。唇はほんのりピンクで、グロスでも塗ったかのように輝いている。細い手足に、すらりとした体形。健康的に露出した二の腕と太もも、ピチピチとした若い素肌が眩しい。  むっちゃかわいいし、完璧すぎる。服もキュートできれいだけど……。それにしても、ただのコスプレイヤーみたい……。 「ま、いっか」  そう言いながら、くるりと回って二、三ポーズをとってみる。あまりにも可愛らしい姿に、ウキウキとしてきた。しかも魔法が使える。異世界だかなんだかしらないが、一人見知らぬ世界に放り出された不安もいつの間にやらどこかへ吹き飛んだ。  魔法があれば、なんでもできる!  何の確証もない、どこかで聞いたようなフレーズだが、妙な自信が湧いてくる。それより何より嬉しいことは、これまでの人や社会との関わりから開放されたこと。 「よし。これからは、一人自由に生きていこう!」  そう呟いてくるりと向きを変え、鏡を背にして歩き出す。  美亜。25歳。見た目13歳くらい。  見渡す限り何もない草原を、目的もなく思いつきで決めた方向にテクテクと歩いていく。
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