薄明の星

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「ヒカリ、起きて。もうすぐ着くよ」  父に肩を揺すられて、ヒカリはうっすらと目を開けた。眠気眼に目をこすっていたが、窓の外、父が指さす方を見て、目前に迫る惑星の純粋な青さに思わず身を乗り出した。  ヒカリは窓に手を押し当てながら父に尋ねた。 「あれがトラピスト1E?」 「そうだよ。あれが、僕たちの新しい”ふるさと”だ」    ヒカリの父は、娘の肩に大きな手を置きながら答えた。  トラピスト1E――太陽系から約40光年の距離に存在する恒星、トラピスト1を取り巻く惑星の一つで、地球人類にとってはトラピスト1星系の中で最も居住に適していた。トラピスト1星系は太陽系から程近く、地球の人々が他の惑星に移住を始めてから数十年間、多くの移民を受け入れ続けてきた。    あれが新しい”ふるさと”なんだ。地球そっくりで、とても美しい。宇宙船に乗る前はめそめそ泣いていたが、実際に新天地を目にして、ヒカリの不安は希望へと変わっていった。  宇宙船はなおも惑星に近づいていった。主星であるトラピスト1の光を受けている方は明るく、その反対側は真っ暗だ。 「すごい。明るい方と暗い方で半分こだ。あっちが昼で、こっちが夜?」 「ヒカリは賢いな。そのとおり。そしてそれは一日中変わらない」 「どういうこと?」 「あの星はずっと同じ面がお日様に向いているんだ。だから昼と夜が変わらないんだ」 「そうなの?そしたら、明るいほうがいいな。ずうっと遊んでいられるから!」  ヒカリは頬を窓に押し当てて、眼下の惑星をきらきらとした眼差しで見つめていた。 「はははっ。明るい方は気温が高すぎて住めないよ」 「じゃあ、どこに住むの?」 「境目は日差しがちょうどいいんだ。夕方みたいな明るさで。あと、暗いほうも住めるよ」 「お日様が当たらなくて、寒くないの?」 「暖かい空気が流れてきて、寒い空気と混ざるからちょうどいいんだ」 「ふうん、ずっと夜はいや。寝なくちゃいけないから。あの境目に住みたいな」    娘の何気ない一言に、ヒカリの父は一瞬悲し気な目をしたが、窓にうっすらと反射したその表情は、ヒカリの目に全く入らなかった。  見た目は地球に似ているのに、中身は地球と随分違うみたいだ。どんな所なんだろう。ヒカリはただただ期待に胸を膨らませていた。
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