On that day

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────◇◆◇◆────  私は黒い画面をみつめ、キーボードに散った涙をハンカチで拭く。  分かっている。  売り上げが重要視されるインターネットゲームで、人気のなくなったゲームがサービス終了することは。  分かっている。  一度サービス終了したゲームが息を吹き返すことは、ほぼないことは。  それでも。  データを完全削除する瞬間は、一つの世界を抹消する瞬間は。  自分の半身がなくなるような気がするのだ。 「お疲れさま、マイラ」 「そう呼ばれると、涙が止まらなくなるじゃないでずがぁ!」 「お前の初プロジェクトだもんな、イーハトープ。俺は好きだったよ、のんびりまったり村生活」 「わたじも大好きでずっ! サ(しゅう)しても大好きでずっ!」  私はティッシュで鼻をかみ、化粧室へ行くために立ち上がる。  古ぼけた壁に貼られた一枚のポスターが、目に入る。 【イーハトープ ~のんびりまったり村生活〜 ◯◯年△月×日15時配信開始!】  日本時間15時。  ゲーム内(イーハトープ)では、存在しない昼と夜の間。  私が製作に携わったゲーム・イーハトープは現実世界から消え、キャラクター達は黒い空へ消えていった。 (……ルッツ。ディグ。マイラ。私はずっと、覚えているからね。君達がいたことを、イーハトープの景色を、ずっと忘れないからね)  ポスターを穴が開くほどみつめ、私はゆっくりとポスターを剥がした。
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