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ルッツが消えた日から。
なにかが、おかしい。
わたしは首筋に嫌な汗をかきながら、嫌な考えを払拭するように声を絞り出す。
「ねぇ、マイラ」
「な、なに」
「やっぱり、黒い空に消えたんだよ」
ヨーヨー羊の毛を刈るディグの手は、止まらない。
「そんなこと、な」
い、と言おうとしたわたしの視界に。
ザザ、ザザザザと、黒いノイズが走る。
わたしは慌ててディグを見る。
ヨーヨー羊の毛を刈る手がグニャリと揺らぎ、所々消えていた。
「マイラにもきたんだね、黒い空の誘いが」
「黒い空の……誘い……?」
「うん。呼び名をつけたのは、僕じゃないけれど」
ジョリジョリ、ゾリゾリ。
ヨーヨー羊の毛を刈る手を、同じ動きを繰り返す手を、わたしはみつめる。
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