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「僕の視界にはね、実は五人いたんだ。サナ、エディ、ニール、クレア、コルト。みんな、良いヤツだった。ある日突然、サナが『黒い空が見えるわ』って言ったんだ。直後、サナは消えた。エディも、サナと同じことを言って消えた。ニールが消える前に、呼び名をつけた。
黒い空の誘いがきたヤツは、一欠片も残さず綺麗さっぱり消えて、元に戻ることはない。五人がそうだった。ルッツもエリーもカインも、黒い空に誘われて、黒い空に消えたんだよ」
知らない。そんな人達、知らない。
知らない。そんな出来事、知らない。
息を飲んだわたしの前で、ディグが静かに先を続けた。
「マイラ。僕が知る限り、君は二代目の記録係りだ。前の記録係りはコルト。コルトが消えた翌日、君はイーハトープに現れた。君の持っている記録日誌には、君がイーハトープに現れた日からの分しか記録されていないはずだ。コルトが消えた時、コルトの記録日誌も消えたからね」
“記録係りの持つ記録日誌には、イーハトープの全てが記録されている”。
わたしは記録日誌のページを、震える指でめくる。
昨日へ、一昨日へ、前へ前へと、ページをめくり。
固く貼りついた最初のページで、指が止まった。
「……ディグ。あなたが話してくれた五人。誰一人、記録がないわ」
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