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On that day
「……ディグ」
わたしは、ディグの定位置だった場所に立ち竦む。
ディグはもちろん、毛を刈られていたヨーヨー羊もいない。
わたし以外の村民全員が、黒い空に消えた。
「ディグ。黒い空って、どんなところなのかしら。青い空と赤い空の間だから、黒い空なのかしらね」
応える声はない。
応える人も、いない。
「ディグ。イーハトープの朝は、清々しいわよね。イーハトープの昼は、穏やかよね。イーハトープの夜は、静かで綺麗よね。
わたし、考えたの。黒い空は────イーハトープの昼と夜の間は、とても過ごしやすいところなんじゃないかしら。居心地が良すぎるから、みんな行ったっきり。居心地が良すぎるから、みんな戻ってきたがらないのよ。
ねぇ、ディグ。あなたもそうなんでしょう? だから、戻ってこないのよね?」
わたしは記録日誌に羽ペンを走らせ、ディグが消えたことを記録する。
ぱた、ぱたたっと、雫がページに落ち、インクが滲んだ。
「ディグ。黒い空で、みんなと待っていてくれる?」
わたしは涙を拭い、再度記録日誌に羽ペンを走らせる。
イーハトープの全てを記録する、記録係り。
わたしは、わたしの仕事を全うする。
【イーハトープ暦△年◯月×日・昼と夜の間・住民全員が黒い空に消えた】
ザザ、ザザザザとノイズが酷くなり。
わたしは、黒い空に溶けて消えた。
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