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一瞬、何のことか分からなかったが、すぐに扉を叩く音が聞こえなくなったことに気づく。
「まさか」
椥辻が部屋を飛び出す。フロントの裏側から非常階段に行くと、扉の前で岡元が頭から血を流し、うつ伏せの状態で倒れていた。その横には大垣が立っている。
「俺が来たら倒れてて……」
しゃべり出した大垣の服には飛び散った血が付いている。すぐに視線を外し、置かれた消火器を見ると、ここにも血が付いていた。
「……大垣さん、危ないですので、部屋にいときましょう」
椥辻が冷静に誘導しようとすると、そこへ金田と王がやって来た。
「きゃっー!!」
床に横たわる岡元を見て、女性二人は悲鳴を上げた。金田の視線が大垣に行く。
「血、血……」
ゆっくりと右手が上がり、服に付いている血を指した。椥辻がまずいと思うと同時に、大垣の右手が金田の左肩を掴んだ。
「きゃっ!」
椥辻は二人の間に入り、金田から右手を引き離そうとした。邪魔する椥辻に大垣の左手が振り下ろされ、とっさに右手で防ぐ。後ろに倒れた体が金田にぶつかり、反動で掴まれていた右手も離れた。
椥辻が身構える。よろめきながら金田は王の元へ走った。ラグビーをやっている大垣の体は、椥辻よりも二回り大きい。まともに食らえばワンパンであの世だ。
力を入れた右の手首に痛みが走る。今さら話し合いに持ち込む口実も思いつかない。椥辻が絶望し、死を覚悟した次の瞬間、大垣の巨体が倒れた。
「あっ」
思わず声が出ると、大垣の背後には飯原がいた。手にはスタンガンがある。
「逆側から回り込んでやったぜ」
「……それあるなら言っといてくれ」
安堵と共に力が抜け、椥辻はその場に座り込んだ。
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