129人が本棚に入れています
本棚に追加
分かれ道を見て、ゆーたが言い、ポケットから折り畳まれた紙を取り出した。
「こっちだ」
椥辻が指を差すが、ゆーたは紙を広げていた。プリントアウトされた地図が載っていて、そこには太い線で道順も入っている。
「……そっちで大丈夫っす。合ってます」
確認して地図をポケットに戻した。
「覚えてるんっすね」
「これくらいは頭に入れる」
離れた道に明かりの点いた民家が並んでいる。道順が最短ルートではない理由に椥辻は気づいた。
「けっこう遠いっすね」
「ああ」
何メートル歩いたのか、何分歩いたのか分からない。スマホは解約してくるのがルールだった。
「あの……聞いていいっすか?」
「どうした?」
「俺、気持ち悪いっすか?」
視線を向けて姿を確かめるが、暗くてよく分からず、自動販売機の前で会った時のことを思い出した。
「違和感はある」
「性同一性障害ってやつで、心は女なんっすよ」
「もしかして、それが死ぬ理由?」
「……はい」
「中途半端だから、お互い気持ち悪く感じるんじゃないか? 下半身だけ女性の格好だし」
「……」
「テレビでもオネエ系っているだろ」
「テレビ見ないんっすよ」
「そっか……」
坂道に差し掛かる。曲がりくねっていたが、分かれ道はなく一本道で、いつの間にか林の中を進んでいた。
「変なこと聞いていいっすか?」
「さっきの質問も変だったけど」
「死のうって思ってます?」
「……」
「そうは見えないんっすけど」
「その質問、そのままゆーたに返すよ」
「……そういうもんかもしれないっすね」
一点の光が浮かんでいるのが見えた。道を進むにつれて近づき、ホタルなどではなくペンライトだと気づく。
木のない開けた場所に女性が二人、寄り添うように立っていた。彼女たちの後ろには一階建ての建物がある。椥辻たちが到着すると、一人が一歩前に出た。
「こんばんは。わたくしが主催者です」
最初のコメントを投稿しよう!