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「もちろん訴えた。勝った。圧倒的に勝った。労災も損害賠償も手に入れた。でも、担当の弁護士がデータを改ざんしているウワサが流れ、一転してこっちが悪者扱いになった。誹謗中傷の嵐だ。ウェブで不特定多数の人と接する仕事をしていた母親は自殺した。それがボクの死のうと思った理由だ」
「……」
一同が黙っていると、ゆーたが口を開いた。
「俺は性同一性障害ってやつで、昔からどこへ行っても馴染めなかったんっす。我慢して大学まで来たんっすけど、就職活動が始まって、面接官に変な反応されると、もう耐えられなくて……こんなのが一生続くなら、もういいかなって思ったんっす」
カーディガンの女性が顔を向ける。
「私の職場にも同じような人いるよ。LGBTって言うの? 普通に仕事してるわよ」
「……そうっすか」
突然KKが立ち上がった。
「みなさん、ここへ何をしに来たか分かっているのですか。説教が聞きたいなら寺か神社か教会にでも行けばいいのです」
「……」
「明日はわたくしの誕生日。二十歳になります。大人になる前に生まれ変わるのです。次の人生はきっと素晴らしく満足させてくれることです」
「人は生まれ変われるのか?」
椥辻が聞いた。
「なら、あなたは生まれ変われないと言い切れますか?」
「言い切れないけど、前の人生の記憶がある人を見たことがない」
「前の記憶なんて必要ですか?」
「生まれ変われる証明ができてない」
「そんなもの必要ありません。生まれ変わると考えるから、生まれ変わるのです」
完全に否定できないからといって正しいと決めつける……ムダな議論だと椥辻は感じた。
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