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「ちなみに、ここは栗木さんの故郷?」
「そうです。わたくしはここで生まれ育ちました」
「この建物は?」
「公民館です。この辺りは水はけが悪く、一度大雨で洪水が起こって、家を建てなくなりました。それから使われなくなったのです」
「なるほど」
そうつぶやいて椥辻は七輪に目を向けた。
「練炭自殺は楽に死ねない。一酸化炭素中毒は火事なんかで大量に吸うからすぐに死ぬけど、この部屋の大きさで、その小さな七輪じゃ相当苦しむか、死ねずに脳に後遺症が残って終わる」
「あなた、わたくしたちの邪魔をしたいのですか?」
「事実を言ったまでだ」
「……トイレ行きたいんだけど」
ココナが会話に割って入った。
「部屋を出て、右に行って部屋を一つ越えれば、奥に女子トイレがあります」
「一人じゃ怖いから、ついてきてもらっていい?」
「分かりました」
KKがドアを開け、部屋を出る。後に続いてココナも出て、ドアを閉めた。すると、またカーディガンの女性が椥辻を見ていて、今度は目が合った。
「ボクの顔に何か付いてます?」
「そうじゃなくて、ちょっといい?」
そう言って彼女は腰を上げた。椥辻がゆーたの方を向く。
「一人になるけど、いいか?」
「なるべく早く戻ってもらいたいっす」
「分かった。あんまり長くならないようにする」
彼女の後について部屋を出る。左右を確認すると、部屋から漏れたランプの光で、両隣に一つずつ部屋があるのは分かったが、その先までは見えなかった。
ドアを開けて建物を出た彼女の後を追う。前触れもなく足を止め、彼女が振り返った。
「椥辻京悟くんだよね?」
いきなりの質問だった。
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