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「そうだけど」
「私のこと覚えてる?」
顔を見ようとするが暗くて分からない。
「いや、ちょっと……」
そう答えて椥辻が首を傾げると、彼女は口を尖らせた。
「小学校の時、同じクラスだった高宮理穂」
「何年生の時?」
「1年生と2年生の時」
「低学年はさすがに覚えてないです」
「椥辻くん、女の子に人気あったのよ」
「……」
うれしくなかった。記憶がないところでモテても仕方がなかった。
「高宮さんはなんで死のうと思ってるんですか?」
「……仕事で発注ミスしたの。一億円近い損害が出た。上司に死ぬほど怒られて、それから会社に行ってない」
言い終えるとリホは身を震わせた。
「他の会社に行けばいいじゃないですか」
「無理。業界はつながってるから、失態はバレてる」
「親が悲しみますよ」
「何が分かるの。親は私のことなんて、どうでもいいって思ってる。実家に帰っても罵られるだけ」
「いるだけいいじゃないですか」
「……」
「言ってること、想像でしょう。実際にはどうなるか分からない。クビになったわけじゃなく、転職だってできるかもしれないし、親だって何も言わないかもしれない」
「椥辻くん、本当に何しに来たの?」
「実はボク、死ぬために来たんじゃないですよ」
「えっ?」
「自殺をやめさせるために来たんですよ」
「じゃあ、さっきの話はウソ?」
「あれは本当です。なので両親はいません。あの時は本当に死のうと思いました」
リホは椥辻から視線を外した。
「……なんか、訳分かんなくなってきた。椥辻くんはこのまま帰った方がいいと思う。巻き込まれて死ぬかもしれないよ」
「死ぬのが怖かったら、ここへは来てないです」
「やっぱり訳分かんない」
「そろそろ戻りましょう。ゆーたが一人ですので」
ドアを開け、建物の中に戻る。部屋に入る前に左右を確認するが、誰もいない。そして、部屋のドアに手を掛けた時だった。
「きゃー!!!」
中から悲鳴が聞こえた。
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