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目が開く。どこからか「うー」という声が微かに聞こえた。
少し開けていた窓から冷たい空気が入ってくる。いつの間にか眠っていた自分の感覚を将軍塚は疑った。
外からドサッという音が聞こえた。今度は確かだと思った。
窓と網戸を大きく開け、外に顔を出す。暗くて何も見えない。枕元に置いていたスマホを手に取った。表示された時刻は『1:32』。
スマホのライトで外を照らしていく。地面に人が仰向きで倒れているように見えた。そこは松ヶ崎の部屋のちょうど下だった。
「まさか……」
唾を飲み込む。部屋を出て、藤森の部屋の前を通り過ぎ、奥の部屋のドアを二回叩いた。
「すみません、入ります」
スイッチを押して、電気を点ける。全開になっていた窓から、蛾が入ってきた。ベッドに松ヶ崎の姿はなく、乱れた毛布と剥がれ落ちそうになっているシーツだけがあった。
部屋の奥へ足を進める。窓から顔を出して下を見ると、地面に倒れていたのはやはり松ヶ崎だった。
早足で部屋を出て、階段を通り過ぎる。東側にある三部屋の真ん中から、くしゃみが聞こえたのでドアを叩いた。
「えっ、誰?」
「将軍塚です。入ります」
ドアを開けて中に入ると、ベッドで横になっていた小野の顔が、スマホのディスプレイの光で不気味に浮かび上がっていた。部屋の窓は閉まっている。
「こんな時間に何だよ」
「松ヶ崎さんが外で倒れてます」
「マジで言ってんのか?」
「マジです」
小野が体を起こして、部屋を出る。ついていくと、奥の隣の部屋のドアをノックし始めた。
竹田社長が出てきて、小野が事情を伝えると、男三人で松ヶ崎の所へ行くことになった。
階段を下り、玄関で靴を履き、内側から掛けていた鍵を開ける。小屋の裏に回ると、点けたままにしていた松ヶ崎の部屋の光が、薄っすらと地面まで届いていた。
「松ヶ崎さん!」
倒れている姿を見つけ、竹田社長が声を掛けた。返事はない。
「窓から落ちたのか……」
二階を見上げ、小野がつぶやいた。
松ヶ崎の横に屈んだ将軍塚は、直接触れないようハンカチを敷いて頭を上げた。後頭部に大小二つの傷を見つけた。
「死んでんのか?」
「残念ながら、そのようです」
「暑くなって窓を開けた時に誤って……」
「いえ、これは……殺人です」
その言葉を聞き、竹田社長と小野が身を震わせた。
犯人は自分以外の4人の中にいると思った将軍塚は、ここまでの言動から、すでに犯人の目星を付けていた。だが、物的証拠がどこにあるのか、まだ分からなかった。
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