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カフェのテーブル席に、竹田社長と松ヶ崎が向かい合って座る。
「話って何でしょう?」
「言いにくいことですが……」
「言いにくかったら言わなくていいんじゃないですか」
竹田社長が苛立ちを抑えて話を続ける。
「この会社を辞めてほしいと思っています」
松ヶ崎は視線を落とし、しばらく黙った。
「……理由は何でしょうか?」
「仕事をしていないからです。小さな会社ですので、ご理解いただきたい」
「小野くんが私の後をつけた話でしょうか?」
「それもあります」
「私も悪かったと思っております。反省しております」
「申し訳ないですが、謝れば済むという話ではありませんので」
「……クビってことですかね?」
「そうなります」
「どういうルールでそうなるんですかね?」
「仕事をしていない人間に給料を払う会社なんてないと思いますが」
「雇用契約書、交わしておりませんよね? 労働条件通知書も見せていただいておりませんが」
「そうですが、常識として……」
「退職を強要するようでしたら、労基所に訴えます」
「……」
「契約取ってくればいいんでしょ? ちゃんとやりますって。今も勤務時間内ですよね? 営業に行ってきます」
松ヶ崎は立ち上がり、何も言わない竹田社長に背を向けて、カフェを出ていった。
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