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お願いだからこっちに来ないで!
「待ってよ幸太郎くん!」
「待ちません!」
人通りの多い真昼間の駅前交差点。
後ろからヒールの踵を鳴らしながら追いかけてくる女性に、武本幸太郎は焦りを露わにした表情のまま振り向いて叫んだ。
その声の大きさに、周囲に居た人間が一斉に幸太郎の顔を見る。
その状況にすぐに気づいた幸太郎は、ハッと更に慌てたように口をわなわなさせて、歩く速度を上げた。
後ろから追ってくる女性は、幸太郎の声に怯むことなく、カツカツと踵を鳴らしながら一生懸命幸太郎に追いつこうと歩みの速度を上げてくる。
めげることない女性の態度に、幸太郎は自分の高身長のコンパスを活かして、更に歩幅を大きくする。
本当は今にでも走り出したい。
そんな気分なのに、休日の駅前はいつもよりも人通りが多く、こんな中全速力で走ったら、周囲の人間にぶつかりまくってしまう。
幸太郎のでかい図体が走り回るには、困難を極めていた。
所々にある細い裏路地に逃げ込んでも構わないのだが、知らない道に下手に入って変な行き止まりになっていても詰む。
追い詰められて、鬼ごっこはあっけなく終焉を迎えてしまうに違いない。
そんな推測の結果、仕方なく大股歩きで物理的に距離を伸ばす案を、幸太郎は採用したのだった。
人波に押し負かされそうになりながらも、20代前半くらいの風貌の、長いピンクベージュの髪を携えた女性は、必死になって幸太郎を追いかける。
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