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「何で付いてくるんですか!」
必死の幸太郎の問いかけに、ピンクベージュ髪の女性は目を輝かせた。
「だって幸太郎くんは私の王子様だから!」
「は?!王子様?!」
思わず幸太郎の口から素っ頓狂な声が上がる。
ちらりと後ろを振り向けば、目をらんらんと輝かせたピンクベージュ髪の女性が、うんうんと首を赤べこのように縦に何回も振っていた。
「いやいやいや、俺はそんな大層な人間じゃないんで」
眉をハの字に下げて困った表情を浮かべてみるも、女性にはまるで暖簾に腕押しで。
「もう~、謙遜とか控えめなのもすごくいい」
どうやら燃え盛っている炎に、更に油を注いでしまった結果となってしまったようだ。
「あーもー!だから何なんだよー!」
幸太郎の叫び声は、高音を孕んで若干ヒステリックなものへと変わっていく。
暑さからなのか感情からなのかわからない汗が、幸太郎の額に玉のように浮かび始めた。
新年を迎えてまだ少ししか経っていない季節、外はまだ十分に冷え冷えとしているのに、速足で動けば動くほど、内側に着込んだ発熱素材のインナーが熱を発して汗を促す。
がしがしと髪を乱暴に掻いた幸太郎は、相手に聞こえない声でうわうわうわと小さく何度も繰り返した。
「お願い、一回でいいからデートして!」
どんなに幸太郎が否定的な言葉を投げても、女性は決して屈しない。
人の波を上手に擦り抜けながら、幸太郎への最短距離を的確に見極めて間を詰めてくる。
狙った獲物は絶対に逃さないハンターのように、彼女の視線の先には幸太郎がしっかりとロックされていた。
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