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冷たい夜風の中で
時間を遡ること、おおよそ半月前のこと。
カレンダーは新品の1ページ目、1月になったばかりのことだった。
本当は行きたくなかった実家への新年の挨拶を済ませた幸太郎は、彼の祖母がこっそり渡してくれたお年玉を、大切にポケットの中で握りしめながら帰路に着いていた。
天気予報が言っていた通り、新年早々はからっと晴れたせいで放射冷却が激しく、外に立っていると足の裏がキンキンになるくらい寒かった。
「靴下をもう少し厚手のヤツにすればよかったかな」ぼそりと後悔を口にしてみたが、実際にその場に厚手の靴下がないのなら、後悔したところでどうしようもない。
思った以上に長い時間を拘束されてしまって、幸太郎が実家を出る時にはすっかり日は暮れて、辺りは暗闇に飲み込まれていた。
「良いところに就職して、早く孫の顔を見せてね…か」
幸太郎を下ろした最終列車は、ガタンガタンとスピードを上げて駅から滑り出し、その規則的な音は静かな夜に響き渡って消えた。
実家で散々言われて、脳内に黒カビのようにべっとりと貼りついた言葉が、粘度高めの重油のように幸太郎の口から自然と零れ落ちる。
元々両親との仲はあまり良くない。
自分自身が、所謂「普通の男の子」から外れていることを言えずにいたことが、いつの間にか小さな歪みを形成して、やがてそれの積み重ねが凸凹でおかしな家族と言う小さな人間関係を築き上げていた。
崩れてしまったものを作り替えるには、手間も労力もたくさん掛かる。
協力しながら進んでいけば、それらの修復は早いのかもしれないが、誰も手伝ってくれないことがわかりきっている現場で、迅速な修復などもはや不可能な話だった。
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