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「しんど…」
ぽつりと呟いた言葉に、幸太郎はハッと我に返る。
曇ったもやのような悪い想像を振り払うように、幸太郎は頭を左右に激しく振った。それから、日帰りの実家帰りだからと、最小限の荷物しか入れてこなかったボディバックをぐっと背負い直す。
顔を上げると、早く改札から出て行って欲しそうな駅員が、面倒臭そうな顔で幸太郎を見つめていた。
我に返って周囲を見回すと、自分以外の乗客は誰もホームにはいない。
ホーム上の電光掲示板には、本日の列車はすべて終了致しましたと書かれていた。
それに気づいて、幸太郎はヤバイという表情を浮かべながら、改札口へ速足で歩く。
ポケットから取り出したスマホを改札に翳して、ピピッという冷たい機械音と共に駅を抜けた。
高校の頃から世話になっている見慣れた駅の風景に、幸太郎は小さく笑うと、安堵の吐息を漏らした。
「おかえり」
「うおぉ!?」
突然声を掛けられ、幸太郎の肩がビクンと跳ねる。
勢い良く振り返った先には、幸太郎が良く見知った、全身真っ黒いコーディネートをした黒髪の男が立っていた。
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