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「よ、義明?」
予想外の人物の出迎えに、幸太郎の声が裏返る。
ぱちぱちと目を瞬かせながら、誰もいない駅の構内で自分を待っていた柴沢を不思議そうに見つめた。
思ってもいない反応だったのか、柴沢は少しだけむっと眉間に皺を寄せ、意地悪そうに口元を歪めながら、黒いウールコートのポケットに手を入れた。
「何だ、迎えに来ちゃいけなかったのか?」
「あ、え、いや、そんなことはないんだけど」
「じゃあいいじゃないか」
さらりと答え、踵を返す柴沢に幸太郎は慌ててくっついていく。
人のまばらになった最終電車後の駅前通り。
飲み屋以外開いていないそんな通りを、のんびりと歩いていく柴沢の速度に合わせて、幸太郎もゆっくりと歩いた。
「まさか、帰りの電車の時間教えろっていうのが、こういうことだとは思わなかった」
「気まぐれだよ」
実家を出る前、スマホに通知されたメッセージ。
柴沢からの「何時くらいにこっちに帰るんだ」という連絡に、「終電で帰るよ~」と伝えていたのを思い出した。
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