11人が本棚に入れています
本棚に追加
おかえり。
実家以外の場所で言われるその言葉に、幸太郎の胸はいつの間にかじんわりとあたたかくなっていた。
さっきまでの暗い顔を駅の構内に忘れて来た幸太郎は、嬉しそうにはにかみながら自分の両手を擦り合わせる。
先を歩いていく柴沢に今振り向かれたら、にまにまとしただらしない顔が見られてしまう。
けれどどうしても嬉しい笑みが抑えきれない、そんな葛藤を抱えたような表情をしながら、幸太郎はもぞもぞと唇を噛み締めた。
「全く、だらしない顔しやがって」
幸太郎の方を振り向きもせず、柴沢が歩きながらくすりと笑う。
「え?!」
こちらを一切見ずに言われたその一言に、幸太郎は目を丸くした。
「な、何でわかるんだよ、しちゃダメなのかよ」
「へぇ、やっぱりしてたのか」
「何ッ…バカ」
肩を小さく揺らしながら楽しそうにする柴沢に、幸太郎は目元を赤くしながら口をわなわなさせた。
最初のコメントを投稿しよう!