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変装する暇もなかったから仕方ないわねとひとりごちながら、アマネは翡翠を凝視する。
「……ふふっ、可愛い娘じゃないの」
「な、なんでアマネさんが?」
「決まってるじゃない。お嫁さんを迎えに来たのよ」
当然のように告げて、アマネは翡翠の腕を取る。
「さぁ、行きましょう!」
「え、行くって……?」
「話はおいおいしますから」
強引なアマネに立たされ、翡翠はみどりの侍女へ困惑した表情を向けるが、すでに彼女は自分の役目は終わったとすっきりした顔でアマネに礼をしている。
「では、確かにお渡ししましたので……お嬢さま、ご武運を」
――ご武運?
ぎょっとする翡翠の耳元へ、侍女が囁く。
「金城朝周さまは、異国の風貌を持たれる黒き巨人と噂されております。ご不興を被らぬよう、お祈りしております」
つまり、気に入られなければ何をされるかわからない、ということだろう。翡翠はぶるっと身体を震わせ、すがるようにアマネを見上げる。
「……そんな心配しなくても大丈夫よ、あの莫迦は結婚する気なんかさらさらないんだから」
アマネは爽やかに返し、軽い足取りで翡翠を連れていく。
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