第弐幕 黒糖飴と歌姫修行

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   * * *         「カチューシャかわいや、わかれのつらさ、せめて泡雪とけぬ間と……」 「翡翠ちゃんすとっぷ! 歌じゃなくてお経になってますわ!」  翡翠が金糸雀歌劇団の劇団員になって、十日が経った。はじめは自分とアマネが結婚しないための方法を探そうと模索していた翡翠だが、歌劇団の体力的にも精神的にも厳しい練習についていくので精一杯で、事態打開への進展には程遠い。  現時点での婚約者である朝周ともあの日以来会うことはない。ただ、ときおり歌劇団の差し入れに黒糖飴があるので翡翠のことを気にかけてはいるのだろう。そのことを思うとあのときの接吻まで思い出してしまいこそばゆくなるが、これが恋だとは思いたくない。あんな軟派な男性は嫌いだけれど、彼を初舞台でアッと驚かせてやりたいと思うようになっていた。  翡翠のように劇団員として雇われているのはアマネともうひとり、舞台女優として名をあげている蜂谷撫子(はちやなでしこ)のふたりだけで、他の団員は百貨店内の売り子の業務などを兼任しているため、全員で練習をするのは基本的に夕方以降になる。
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