第弐幕 黒糖飴と歌姫修行

17/40
前へ
/134ページ
次へ
 アマネに次ぐ歌姫として金糸雀歌劇団で注目を浴びている撫子は、その名のとおりたおやかな女性である。だが、舞台に立つと甲高い地声は鳴りを潜め、心地よい歌声で娘役から男役まで演じることができるため、劇団員たちから姐御として親しまれている面も持つ。 「撫子ちゃんが頑張ってくれるならあたしの出る幕はないわねー、頼もしいヮァ」 「だからってアマネちゃんもちょくちょく練習抜けないでよ! こんなへっぽこ新人をいきなり次の舞台に立たせるなんて、静鶴さんも何考えてるのかしらっ、妄想を暴走させるのもほどほどにしていただきたいわ」 「時間がないのよ」 「静鶴さんいつの間に……」  まるで透明人間のように気配を感じさせず翡翠たちの前へ現れた静鶴はアマネと撫子の困惑した表情を気にすることなく言葉を零す。 「小鳥ちゃんとハチドリの気持ちもわかるけど、かわせみのためにも一肌脱いであげてよ。王子さまが王女さまと結婚する前に」  小鳥がアマネでハチドリが撫子のことなのだろう、だが、王子と王女という暗喩が何を示しているのか翡翠は理解できない。 「――情報が早いですね」
/134ページ

最初のコメントを投稿しよう!

191人が本棚に入れています
本棚に追加