第弐幕 黒糖飴と歌姫修行

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 けれど、朝周は外見だけでなく内面まで美しい翡翠を気に入ってしまった。横濱駅へ迎えに行ったあのときに、けして涙を見せずアマネに従ったうつくしい少女のことを。  辛い現実を素直に受け止め生きようと自分についてきた気丈でいじらしい彼女を意識してしまったアマネは、それが歌劇のような激しい恋情とは異なる穏やかなものだと知って泣きたくなった。  初めてだ。このひとなら、素直にすべて受けとめてくれるんじゃなかろうか、と思えたのは。  七色の声と驚異的な聴力を持つがゆえに異形と蔑まれた幼少のこと。美しく着飾り歌い躍る西洋風歌劇に出逢ったことでドレスや宝石を身につけ女装し舞台に立つ悦びに目覚め、父親に呆れられても意志を貫き歌姫となったこと。そして頑張って隠している自分の複雑な生い立ちも……  いまはまだアマネとして傍にいる時間の方が長いが、彼女の失われた恋の傷が癒えたなら、いつかは事情をはなし、自分を花婿として受け入れてもらおうとまで考えたほど。あのとき接吻したのも、金城朝周という自分を認識してほしかったからだ……たとえ苦手だと嫌われても、記憶に強く残るように。
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