【 第46話: 最後の口づけ 】

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【 第46話: 最後の口づけ 】

 ミャーは、俺の服を握りしめ、震えて泣いていた。 「ミャー、君を連れて行くわけにはいかない。君の命の危険もあるから」 「ミャーはタローと一緒だったら、それでもいいにゃ……。だから、ミャーも連れてって!」  俺は、やさしくミャーを手を取り、振り返ると、ミャーにこう伝えた。 「ミャー、聞いて欲しい。君は、この国に必要な人だ。君の身に万が一何か起きた場合、ダガヤ王や民衆が悲しむ。だから、俺一人で行かせて欲しい。俺は、この国の人、一人も死なせたくないんだ」 「ミャーは、タローがもし死んだら、私もその時は、一緒に死ぬにゃ……」  それは、俺が一番恐れていた言葉だった……。  そう言ってくれるのは、嬉しいのだが、ミャーを死なせてしまっては、この作戦の意味はない……。  だから、俺はこう言ったんだ。 「ミャー、安心して。俺は、絶対に死なないよ。生きてまた帰ってくる。それを約束する」 「本当に……?」 「ああ、絶対に生きて帰ってくるよ。約束する」 「タロー……、ふぅぅ……」  俺は、ミャーと見つめ合う。  そして、ミャーはそっと瞳を閉じる。  二人の唇がゆっくりと近づいていく……。 「(んっ? ちょっと待てよ……。この展開は、マズイんでないかい……?)」  俺は、咄嗟にミャーから離れる。  でも、ミャーは再び目を開けると、近づきそのかわいらしいプルンとした唇を、俺に差し出してくる……。  まるで吸い込まれそうな、艶のあるピンク色の実にかわいい唇だ。  もう、距離にして10cmあまり……。  やがて二人の唇は、磁石のように引き合い、くっつきそうだ……。 「ダメだ、ダメだ……」 「ど、どうしたにゃ……? タロー……?」  ミャーは、不安そうな顔をしている。  でも、そのかわいらしい唇に触れれば、ミャーは確実に俺の生き血を吸うだろう……。  そうしたら、俺は民衆の前で、無様に倒れてしまう……。交渉どころではない……。  ミャーのそのブルーの大きな瞳に、涙がどんどん溜まっていくのが見えた……。  これは、マズイ……。  その甘い誘惑に、俺の心は負けてしまいそうだ……。  俺は首をぷるんぷるんと横に振ると、代わりに、ミャーの額にやさしく軽いキスをした。 「ミャー、行ってくるよ」 「タロー、絶対に生きて帰ってくるにゃ……」 「ああ、じゃあ、行ってくる」  俺は颯爽と馬に乗って、城の門を出た。  振り返ると、ミャーや大勢の民衆が、俺の背中を押してくれていた。  もう、引き返すことはできない。俺の心は決まった。  でも……。 「(ああ~、このまま死んだら、ミャーと最後口づけしなかったことを後悔するかも……)」  そんな、不純なことを思いながら、俺はヤーシブ国を目指し始めた……。
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