■第1章【 第1話: ノスタルジック『名古屋』 】

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■第1章【 第1話: ノスタルジック『名古屋』 】

『ズルズルズル……』 「あ~、このきしめん、でら、うみゃ~(名古屋弁で『すごく、おいしい』)」 『チリリン……』  俺は、10年ぶりにここ地元『名古屋』に帰っていた。  大学を卒業して、10年間東京で働いていたが、父の家業を継ぐため、このノスタルジック漂う街『名古屋』に帰っていたのだ。  実家に帰る途中に、ふらっと立ち寄った1軒の『きしめん屋』。  古い店構えにしてここまで出せる、どこか懐かしく心に染みる絶品のこの味わい。  東京ではほとんど見ない、久しぶりに味わうこの『(ひら)たい麺』の舌触り。  うどん県香川にあるような、シコシコとした歯応えのある麺ではなく、この独特な絹のようにやわらかく、そして平らに長い麺。  それが、俺の喉を通る。  うん、実に心地いい……。  この平たい麺に絡みつく濃いめのつゆの奥深さも、この麺にとってもマッチしている。  まさに、これが『名古屋』の味だ……。  俺は、久しぶりに味わうこの地元の『名古屋めし』に舌鼓(したづつみ)を打っていた。 「大将、ごちそうさん」 「ありがとね~」 『ガラガラ……』 「あ~、うまかった~。でら、うみゃ~な、ここのきしめん」 『チリリリン……』 「んっ? 何だ、子猫か……」 「ニャ~」 『チリリン……』 「何か、珍しい色の鈴付けとるな、この子猫……」  その子猫は、淡いベージュ色のようなきれいな毛並みで、首にはあまり見かけない『』にキラリと光る鈴を付けていた。  目は猫にしては、そんなに吊り上がっておらず、どちらかと言えば、クリクリとかわいらしい目をしている。  どこか、お金持ちの人が飼っている猫が迷子にでもなったのかなと思いつつ、先程、きしめん屋で支払った際に使った、一枚しか持っていないクレジットカードを財布に入れようとした。  すると、思わず手が滑ってしまい、そのクレジットカードを落としてしまった。 『ヒラヒラ~……、ポトッ』 「あっ、いけね」  すると、その大事な大事な1枚しか持っていない俺のクレジットカードを、その子猫がいきなりパクリと(くわ)えて、一瞬俺の顔を見てから走り出した。 『パクッ。チリリリン……』 「お、おい、この子猫! 俺のだぞ、それは!」 「ニャ~」 『チリリリン……』 「このやろ! このすばしっこいやつめ! 返せ、俺の大事なクレジットカード!」 「ニャ~」 『チリリリン……』  その子猫は、俺のクレジットカードを口に咥えたまま、飛び跳ねるように、古い木造の建物の路地裏へと逃げ込んでいった。  俺は、その子猫を追って、その少し薄暗い、狭くてジメジメした路地裏へ入っていった。 「こいつ! 返せってんだ! このドロボウ猫が~!」 「ニャ~」 『チリリリリン……』
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