【 第5話: ミャ~ 】

1/1
60人が本棚に入れています
本棚に追加
/64ページ

【 第5話: ミャ~ 】

 俺が振り返って、その声の主を見ると……。 「あっ……」  そこには、かわいらしい女の子が、何やら『常滑焼(とこなめやき)の招き猫』のような丸っこいグーの形で胸の前に手をやり、俺の顔を見て、首を少し傾けながら微笑(ほほえ)んでいた。  歳は中学生くらいだろうか。  その少女の肌は白く、髪はショートでモカブラウンのような色をし、目はくるりと丸く、服装は何やらどこかの赤い民族衣装風の変わった格好をしていた。  かわいい……。癒される……。俺はそう思いながらも、少し後退(あとずさ)りしながら聞く。 「き、君は……、誰……?」  すると、その少女はかわいらしい八重歯(やえば)を見せて、こう口を開いた。 「私は、『ミャー』だにゃ?」 「ミャー……、だにゃ……?」  俺は、この聞き覚えのあるイントネーションに、もう1歩後退りする……。 「そうだにゃ。そんなに(うし)ろへ行っちゃうと、また穴ぽこに落ちちゃうだにゃ」 「あ、穴ぽこに落ちちゃうだにゃ……?」 「そうだにゃ。気をつけてないと、落ちちゃうだにゃ」  どういうことだ……。この『ミャー』と名乗る少女は、一体何者なんだ……。  そして、このどこかで聞いたことのあるような独特のイントネーションは……。  よく見ると、その少女の頭には、何やら猫の耳らしきものが付いている……。  そして、お尻には、猫のしっぽらしきものも付いている……。   「(こいつ、猫の格好をしたコスプレ少女か……? さては、渋谷によく現れるという、『猫ニャンニャン野郎』だな……?)」  しかも、その少女の口元からは、かわいらしい八重歯が出ている。  うん、これは、かわいい……。  そして、その少女は、俺の顔をジーっと見つめた後、また首を(かし)げるような仕草を見せると、猫ニャンニャンの手をしながら、ニッコリ笑った。  それも、かわいい……。とても癒される……。 「ねぇ、あなたのお名前は、何ていうにゃ?」  俺は、その言葉にようやく我に返った。 「あっ、お、俺の名前は、『名古屋 太郎(なごや たろう)』。き、君の名前は『ミャー』って言うの?」 「うん、そうだにゃ。よろしくね。タロー」 「(こ、こやつ……。俺は、32歳の年上のおっさんだぞ。いきなり呼び捨てか……?)」  俺とその『ミャー』という謎の少女との奇妙な(にら)み合いは続いた……。
/64ページ

最初のコメントを投稿しよう!