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 9月某日の昼休み。おしゃべりに余念がない同級生達とは一線を引くように、高校2年生の芦沢登也は教室の窓際の席で読書をしていた。シャープな顔立ちの中核である鋭い瞳は、光の角度のせいかブルーがかっている。窓から入ってくる秋の涼しさを帯びた風に、外に少し跳ねた硬い黒髪が小さく揺れる。  登也にはここ数日、気になっていることがあった。  チラリ、と視線を投げる。 「新エリアよかったよ。町並みなんか再現度高くてテンション上がったし」 「マジかー。私も行きたいなー」  3mほど先で、男子が女子2人にテーマパークの話をしている。大きな目の凜とした顔にサラッとした短髪。彼、楠見(くすみ)昌人(まさと)は、テストの点はいいし運動神経はいいしで何かと目につく同級生だ。  彼らを眺めていると、気づいた女子が振り向いた。 「え。ゴキブリ絶対殺すマンがこっち見てるんだけど」 「暗殺者(アサシン)が? 怖……」 「聞こえてるぞ」  登也は面倒臭さを隠さずに言った。馬鹿っぽいニックネームにツッコミを入れるのはとうの昔に諦めている。  読書に戻ろうとして、登也は強い視線を感じた。微かに胸が動揺する。  並の人間ならゾクッと恐怖を覚えるような、冷たく暗い目――楠見だった。やはり、気のせいではなかった。元々好かれていないとは思っていたが、最近、こんな風に敵意の篭もった目を向けてくるのはなぜだろう。  相手の視線が逸れても登也の胸はざわついていた。それはまるで不吉な何かの予兆のようだった。  
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