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第1話 「気になる彼の水曜日」――高円寺 有紗
「じゃあ聞くけどさ有紗、それが恋じゃないなら、一体なんだっていうんだよ」
私の背後の席に鎮座するクラスメート、葉山 陽一くんは腕を組み、そう断言する。
「そんなんじゃないよ、だって入学して半年近く経つのに、ほとんど口も聞いたことないんだよ。水曜日だけは朝から屋上で読書していて、しかも誰とも喋らないってことしか知らないし」
「ぶはっ! 恋に落ちるのに言葉なんかいらねえんだよ。俺に相談を持ちかける時点でフラグ立ちまくりじゃん」
「ちょっとやめてよ、どうして葉山くんはベクトルがそっち向くのかなぁ」
あわてて両手を振って否定しつつ辺りを見回す。幸い、教室の喧騒が葉山くんの邪推をかき消してくれたので、誰にも聞かれることはなかったみたいだ。年頃のクラスメートは恋ってキーワードに過敏症なんだから、うかつに恋バナ的発言をされるのは誤解の元になる。
「京本くんは水曜日だけ人が変わる、『ちょっと気になるクラスメート』なだけだよ」
「気になる、ねぇ……」
葉山くんは両腕を頭の後ろに回し、上履きを脱いで両足を机の上に放りだしふんぞり返る。
「じゃあ俺の立ち位置は?」
にかっと白い歯を見せて意気揚々と尋ねてきた。恥ずかしげもなくそう訊くことのできる彼はある意味、尊敬に値する。その鋼のメンタル、私にもお裾分けしてほしい。
ちなみに今のひとことも、別段、恋人に立候補しているわけではなく、私のことをからかっているだけ。そうでなければ、堂々と足の裏を私の目の前に並べるはずがない。
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