一日目

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一日目

仕事を早々に終わらせ、職場のすぐ近くのバス停からバスに飛び乗り、特急くろしおに乗り込んだ。18時半のくろしおに乗り込めたので、祖母の家に着くのは20時40分だ。 『タクシーは 午後6時までしかやってないそうなので 美代ちゃん(叔母) が 駅まで迎えに行ってくれます 乗れたら電話お願い』 『ごめん!今度は半日休暇の時に行くね💦みよちゃんにもよろしくお願いします。みよちゃんにお土産買ったから渡すね』 電話を、と書いている祖母のラインに続き連絡を送り、返事を待つ。  祖母は御年83にしてスマホを割と使いこなしているお方なのだが、その機種のせいなのか、携帯ではなく不携帯になっていることがあるからか。電話をしても全く気が付かないことがある。目の前に携帯を置いていても、電話が来ていたことを示すラインがのちに来て初めて気が付くこともあるという。因みに難聴もないので、私は携帯と祖母、どちらが悪いか聞かれたら即答で携帯と答える。  注意深く待っていてくれたのか、すぐに返事が来た。 『美代ちゃんに よう 気ついたね♬ そう言えば 前にも 迎えに行ってもらったね 駅に8時39分やね』 『安物だけど💦そうだったね💦あの時ってなにでいったんだったか…半日休暇だったかな?』『うん、それで大丈夫!』 念のために既に送っていた電車の出発時刻など調べた時の写真をもう一度送る。やはり、ほどなくしてOKのスタンプが送られてくる。非常にかわいい、無料の柴犬のスタンプだ。あとで私もダウンロードしよう。一人暮らしだから自分でダウンロードしたんだろうが、本当にわが祖母は衰えを知らない。  一仕事終えた気分で座席に深く腰掛け、夕飯までのつなぎとしてコンビニで買ったチョコドーナツをほおばる。  19時近いが、夏の日はまだ海と空の境界線を曖昧に形作っていた。岸による静かな波のように考えが脳内で動き出す。  祖母の家に行くのはいつぶりだろう、そういえば一週間前に父と夜に訪れ、朝に帰るという素泊まり宿のようなことをした。しっかり泊まるのは正月以来か。本当はもっと早くに遊びに行きたかったが、感染症の流行や半日休暇が土日にくっついていないことを理由に行っていなかった。もうこのまま今年は正月までいかないかと思っていたが、恋人の一言で気が変わった。 「おばあちゃん、喜ぶと思うよ。言い方は悪いけどあとどのくらい一緒にいられるかわからないしね。僕のおばあちゃんが亡くなったのも君くらいの年だった」
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