3人が本棚に入れています
本棚に追加
ぶわっと、黒い何かが男の身体から飛び出す。男は恐怖に毛の一本を動かすことも出来ずに、その場に固まっていた。不思議と痛みはない。それどころか血の一滴すら流れてはいなかった。
「大丈夫か」
騎士が心配そうに男の顔を覗き込む。いやいや元凶はあんただよ。
「なに…今の…」
「君にとって良くないもの」
「意味わかんない…」
男は糸が切れたように地面に倒れ込んだ。安堵か、恐怖が限度を超えたのか。ただ、目に映った空が真っ青で、眩しいことだけが事実だった。持っている感情が絶望であろうと希望であろうと、現世であろうと意味のわからない世界であろうと、それだけが確か。
「眩しいな」
騎士も男の横に寝転ぶ。誰だか知らないし意味のわからない奴だけれど、何故か怖くはなかった。むしろ心がぽかぽかする。一緒にいることに、安堵する。
「うん…でも、憎らしい」
「どうして?」
「いつでも、青いから。打ちひしがれて死にたい日も、感傷に浸りたい日も、青いじゃん。雨が降ってもいつかは晴れちゃう。僕の人生に光はささないのに、必ず朝が来て空は青い。むかつく」
「…君の人生にも、晴れはあるだろう」
「ないよ。ない。いつかは晴れると思って努力し続けてきたけど、でも、そんな日は来なかった」
「だから、死んだ?」
最初のコメントを投稿しよう!