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「知らないよ、そんなの…」
男はぎゅっと目を瞑った。目頭が熱くなるのを、必死で止めようとする。
「知らないよ、知らない!何回応募したって落選する!努力は報われない!理想なんて単なる夢物語だ。あんたの夢だって僕の夢だって夢物語なんだよ!叶うはずないだろ!そのくらいわかれよ!いい大人なら!」
「いい大人って、なんだ?目標を叶うはずのない夢と割り切って諦めることか。そんなかっこ悪い人間を、大人というのか」
「そういうもんだろ、世間はさ」
「知らないね」
騎士は冷たい口調で言い放つ。けれど、男の顔を覗き込んだその目は、限りなく暖かかった。
「世間なんてどうでもいいだろ。オレは、他の誰がオレを否定しようが、オレのやりたいように生きたいと思うし、お前にもそうであってほしいと思う」
「でももう、限界なんだ…疲れたんだよ…ぜんぶ捨てれば楽になるのかなって作った物語ぜんぶ捨ててみても苦しさは変わらなかった。やっぱりどうしても小説家になりたいし、書かなきゃ生きていけなくて」
我慢していた涙が溢れる。
「どうしていいかわからないんだよ…生きる希望も糧もない。僕はどうすればいいの…」
泣きじゃくる男の涙を指でそっと拭って、騎士は男を抱きしめた。
「書けばいい」
「だから、」
「書けばいいんだよ。お前がそうしたいのであれば。そうしたいと思うなら。たとえプロの小説家になれなくても、書くことは出来るだろ。書き続けていれば夢にたどり着くかもしれない。それは奇跡かもしれない、でも、やらないことには、奇跡が起こることは有り得ないんだ」
「…」
「オレの生みの親は、楽しくて楽しくて仕方がないってかんじで、物語を紡いでいたよ。そうだろ?」
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