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「…でもやっぱり、失敗するの、怖い…次こそはって言っても、また、落選するのが怖い…出来ないかもしれない…」
「失敗したら、また、一からやり直せばいい。苦い思いは掃除してすべてクリアして、まっさらな状態から描き始めればいい」
「そんな、簡単に…」
「オレはそうやって生きていた。オレの親であり兄弟でありオレの一部であるお前が、出来ないわけがない。出来ないなんて言わせないからな」
騎士の言いように、男はクスッと笑う。確かだ。騎士にこういう生き方をさせたのは、他でもない自分だ。
「じゃあ僕もそうしなきゃだね」
さっきまでのどんよりした心が嘘のように、男は晴れやかな笑顔を騎士に向ける。騎士もつられて笑顔を咲かせた。
「待って」
しかし、男は急に青ざめる。気まぐれな天気のような人間だと騎士は思った。
「僕、浜辺で、凍死を図った…生きようと思っても僕、もう生きてない…」
さっきとは別の感情が男に涙をもたらす。生きたくて泣くのは初めてかもしれない。
騎士はそんな男を見て大声で笑った。
「はははははっ」
「笑いごとじゃないよ…!意地悪…!僕が死んだの、知ってたよね!?知ってて鼓舞するなんて…!」
「大丈夫だよ」
「は?」
「オレが、お前に生きてほしいから、大丈夫。オレは騎士だからな。護りたいものを、この手で護るのが役目だ」
「そんな奇跡みたいな…物語の登場人物にそんなの出来るわけないじゃん」
「奇跡は嘘みたいなことが起こるから奇跡っていうんだよ」
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