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いざ出発
土曜の昼、暁士のマンションに宋十郎が迎えに来た。
都会暮らしでマイカーを持つメリットと金がないので、暁士は車を持っていない。
対してマンション裏に現れた車は、暁士も初めて見るトヨタクラウンの最新モデル、しかも色はダークブルーだった。
同じだけ金があればアウディかレクサスのスポーツモデルを買いたい暁士には、宋十郎のセンスはいつも大体謎である。
サービスエリアの駐車場に停めておいたら十円傷をつけられないだろうか。
「暁士だ!おはよう!」
わざわざ後部座席のウィンドウを下げて挨拶してくれたのが、憂である。
宋十郎の病気の兄貴、もしくはそれに憑いているツバメ。
痩せているせいかチビに見え、言動が子供っぽいせいか高校生くらいに見える。
秋に入ってすぐセーターを着始め、今日はニット帽までかぶっている。
ツバメは冬になると南国へ渡る鳥なので、人間になっても寒いのが嫌らしい。
「おー、おはよー」
憂に手を振り返し、暁士は運転席に回り込んだ。
運転席のドアが開き、宋十郎が下りてくる。
「来てくれて助かった。礼を言う」
この昔言葉みたいな日本語を喋るのが宋十郎である。
全体的に変な男だが、見た目だけはいい。
切れ長の瞳に不健康一歩手前の白い肌というのは、暁士のイケメン基準とはかなりずれているが、女性受けは良いらしい。
こいつと一緒に飯を食ったりすると、ウェイトレスさんから普段の1.5倍くらいの笑顔を貰える気がしている。
宋十郎のファッションは、シチュエーション不問でいつもドレスシャツとジャケットにノータイである。
気温が下がってきてジャケットの素材がツイードになった。それもジジ臭いと言うべきだろうか。
暁士自身はダークカラーのデニムにフライトジャケットである。
彼は背が高いのでサイズの問題もあり、あとはドンキかスポーツ用品店で買えそうな服、もしくは作務衣しか持っていないので、これが背伸びの限界だった。
宋十郎に彼の服装を気にする気配はないので、旅館のドレスコードはクリアしたのだろう。
暁士は運転席に座ってシートベルトを締めると、車のエンジンを入れた。
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