たそがれさん

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 次の週、マユミさんは何事もなかったように、火曜日に店にやってきた。連絡先は交換していなかったから、僕は少なからずほっとした。 「こんにちは」 「こんにちは、カフェラテください」  にこりと笑った顔もいつも通りだった。さらさらの長い髪が、この時間でもかなり低い位置になってきた日の光に透けている。濃い茶色の瞳も、少し薄い、化粧っ気のない唇も、どうしようもなく魅力的だった。僕は一週間持っていた、自分の電話番号とLINEIDを記した紙を差し出そうとエプロンのポケットに手を入れた。  あれ。  マユミさんの首に、赤い痣のようなものがちらりと見えた。怪我でもしたのだろうか。雇用者が、理不尽に彼女を痛めつけたのだとしたら。自分がマユミさんにどう思われてしまうかを考えるより先に手が動いた。彼女の長い髪をかき上げる。そこには太さの異なる何本もの線が入っていた。バーコードだった。  そうか、マユミさんは、珈琲を飲まなかったのではなくて、飲めなかったのだ。ヒューマノイドだから。
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