まほうの空 きんいろの時

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「私はかわいそうじゃないよ。だから君もかわいそうじゃない。」 金色に染まった屋上で、金色に染まった先輩が言った。 季節に似合わないやわらかな風が吹いてきて、先輩の少し長めのボブがフワリフワリと揺れていた。 黄昏時、トワイライト、逢魔が時、夕暮れ時…マジックアワーの空の下。 高校1年の冬。先輩の言葉が僕に魔法をかけた。 * * * 2つ上の先輩。高校で出会ったとあの人は思っていたけれど、僕はもっとずっと前から知っていて、そしてたぶん、初恋の人だ。あの手この手を使って近づいて、ようやく話せるようになって、特別親しい後輩という自覚を持てるまでになった。 僕たちには共通点があった。ともにひとりっ子で、ともに家業というやつがある家に生まれたこと。 先輩は医者。僕は造り酒屋。 僕には幸いこれといって夢と呼べるものはなかったけれど、先輩には不幸にも演劇という夢があった。 先輩は、医大の受験で結果を出す努力をしつつも、家族に内緒で東京の演劇大学に願書を出した。 記念受験と笑っていたけれど、引退したはずの演劇部で後輩に混ざって発声練習をしていたのを僕は知っている。 でも、記念ですら、受験さえも、叶わなかった。 東京に行っているはずの日、先輩は学校にいた。 放課後僕は、この屋上に直行した。空が金色に染まる今日みたいな夕焼けの日、先輩は決まってここで空を見上げていると知っていたから。
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