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「マジックアワーって言うんだって。魔法をかけてくれるんだよ。」
初めて会った日に言っていた言葉を、先輩はきっと今も信じてるんだ。
小学生のあの日、僕は丘の上の先輩の家、病院に担ぎ込まれた。蔵に立てかけてあった梯子に登って落っこちたのだ。幸いただの捻挫で、父だったか祖父だったかが会計している隙に、先に外に出た僕は、2階の窓から空を見上げている女の子を見つけた。
「何してるの?」
「空見てるの。」
「空??」
「うん、金色のお空。マジックアワーって言うんだよ。魔法をかけてくれるの。」
飽きずに空を見上げる金色の光に包まれた女の子を見上げ、僕は思った。
「天使…。」
高校の屋上。あの頃より少し大人びた天使が今日も空を見上げている。羽ばたこうとしたけど、羽をもがれた天使が…。
「やっぱり…おかしいですよ!今どき…医者の家に生まれたって、医者にならなくても良いじゃないですか!」
「そうだね…ありがとう。でもね、本当に記念受験だったんだよ。」
「先輩…。」
「つよがりとかじゃなく、本当に。」
先輩がくるりとこちらを向く。
「君はおうちの仕事きらい?」
「え?」
「私は好きなの。お父さんやお母さん、おじぃちゃんの仕事が好き。この町の人が頼ってくれるうちの病院が好き。」
澄み切った目で真っ直ぐに見つめられて僕は答えを思案する。
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