まほうの空 きんいろの時

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子どもの頃から麹の匂いの中で育った。父からも祖父からもいつもほんのり甘いような香りがしていた気がする。そして、僕の頭をガシガシ撫でる手が、その力強さに似合わないほど、ぽやぽやと柔らかくてすべすべなのがとても好きだった。新酒の時期にぶら下がる杉玉が、子どもの頃は手足が生えて動きそうでなんだか怖かったけど、なんだか愛着のようなものもあって、結局は好きだった… 「きらいじゃ…ないですね。」 決められている、決まっていることが嫌だったんだ。とてつもない不幸に思えて仕方がなかったんだ。きっとそれだけだったんだ。考えてみたら僕は先輩と違って、自分で選び取りたい何かがあったわけでもないし、そもそも親から一度だって継げと言われたことすらなかったじゃないか。勝手に思い込んで勝手に不幸を気取ってたんだ。 「今日ね、親にバレたわけじゃないの。すごく傲慢なんだけど、受かったらどうしよう、と思って。なんかこわくなっちゃった。」 「いや、受かりましたよ、絶対。」 「でしょ?」 先輩がイタズラっぽく笑う。僕も釣られて笑う。 「私たちみたいな境遇だとさ、好きなことできなくて可哀想とか、親の引いたレールとか言われるし、自分でもそんな気がしてきたりするじゃない?でも、そういうんじゃないんだよね。そういう人ばかりじゃない。親の姿を見て育って、親が繋いだ糸を自分も受け取りたいって思うこと、そんなに不幸じゃないし、別に自然なんじゃないかなって。私は自分で選んでこの道を行くの。」 キッパリとした口調で言い切ってから、ふーっと、息を吐いた先輩はもう一度言った。 「私たちはかわいそうじゃない。」 僕は、魔法にかかったように、自分で自分にかけていた呪いから解放された。 「きっと君も、君の意思でお酒を作るようになるよ。」 …天使のお告げだ。
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