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生徒手帳がない。思い当たる節は、朝改札でポケットから物をばらまいた時。
駅員さんに声をかけようと口を開けば、誰かと言葉が重なる。
「「あの」」
聞こえてきた方向を見つめれば、いつも電車で見てる彼。その手には、私の可愛くない顔写真付きの生徒手帳が握られている。
「私の生徒手帳」
「本当に君の?」
「写真と見比べてください!」
ずいっと顔を見せつけるように近づければ、彼の頬が赤く染まっていく。
「ちょっと、判断しかねるな」
「えっと……」
他に入っているものを思い浮かべる。思い当たるものが1つあるが、言えない。
「名前! 片思 恋です」
「でも、ほら、名前知ってる可能性もあるから」
なんだかんだと理由をつけて、渡してくれない彼を睨み付ける。
「他に入ってるもの、ない? 写真とか」
「み、見たな!?」
次は私の顔が赤くなる番だった。赤面して俯けば、ポイッと生徒手帳が投げ渡される。
「ちゃんと見てね、恋ちゃん」
それだけ言って、いつも見ていた彼は走り去る。受け取った生徒手帳の間に挟まる彼を隠し撮りした写真の裏。
電話番号とSNSのID。そして、走り書きのような汚い男の子の字。
ーー俺もいつも、見てました。連絡ください。
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