19人が本棚に入れています
本棚に追加
「おいっ?! どうした! 大丈夫なのかっ?!」
すっ飛んで行って、バスルームのドアを開けると――。
「何よこれっ!! どうしてくれるのようぅー!」
グズグズと泣いているアンジェリーナの首の周りに、漆黒の艶やかな長毛が襟巻きみたいにフサフサ生えている。……なんだこれ、無茶苦茶そそられるじゃねぇか!
「かっ……可愛い」
「はああああっ? アンタ、バッカじゃないの――んっ!?」
バスルームに凄いフェロモンが充満している。ゾクゾクと煽られて、咄嗟に抱き締めて唇を奪った。舌を絡める間に、オレも項の辺りの後ろ毛が伸びてきた。あ、ヤバい、と思ったときには半狼化していて……。
「バカぁ……この後、ここのホテル発祥のオリジナルカクテルを飲みに行きたかったのにぃ!」
銀の長毛に覆われた胸板をバシバシ叩かれるけれど、半狼化した彼女の身体は艶めかしく、力任せに押し倒していた。初めこそ抵抗していたものの、オレのフェロモンに当てられたのか、彼女も興奮状態に陥って、瞳が潤んでいる。
「諦めろ。きっと月が昇ったんだ。沈むまで、楽しもう」
「だ、だって、新月でしょ?」
「だから、半分しか変化してねぇだろ。あー、色っぽくて堪んねぇ」
全部体毛に覆われていないのが、とんでもなくエロい。
「もうっ! 明日の昼間こそは、アタシに付き合ってもらうんだからねっ……流れるプールで泳いで……今度こそ、カクテルを飲むんだからぁ……!」
荒々しく絡み合いながら、アンジェリーナはオレの首筋に長い犬歯を立てる。痛みすら、ゾクリと快感になってきた。これじゃ、長の言うような一時的な反応じゃ済まねぇかもしれねぇな。
「ああ。分かった、分かった」
毛並みを撫でて宥めながら、血の味がする唇を舐め、キスを繰り返す。
あの夜のことは、事故だった。
だけど。
昼間活動出来る吸血鬼ってのも、悪くねぇ。
そうだ。今度の満月の日には、昼間から一日中デートしよう。夜になったら狼の姿になって、本能のまま街を駆け回るんだ。
【了】
最初のコメントを投稿しよう!