黄昏異能都市

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 朱音警察署刑事部捜査第五課第六係。第五課が異能犯罪担当で、六係は住人の異能に対する陳情とかに対処する組織だ。雑務が多い。刑事課が異能に対応するのは異能そのものが一歩間違えば大きな事件に繋がり兼ねない代物だから。  昨日から私の職場になった。 「おはようございます」  挨拶は仕事の基本。つまり着いて早々に一仕事片付けてしまった訳だ。優秀過ぎる自分が恐ろしい。  昨日の疲れを感じながらデスクの島を渡っていくと、係長がこっちを見ていた。渋い顔をしてる。 「何か?」  ひょこひょこと近づいていくと、顔の渋みが増した。 「ウチの課は服装自由だけどさ。コスプレはどうかと思うんだよね」  言われて自分の格好を確認してみる。上下小豆色のジャージに白のスニーカー。見てないけど背中には黒リュックの重みが確かにある。 「どう見ても親しみ深い運動着ですが。どこがコスプレですか?」  過去に警察手帳の写真と見比べられて騙りと誤解された事37件、写真を今の格好に合わせて上から張って誤解されないようにしたら警察手帳が偽物だと疑われた事が12件あるが、それが何だと。 「学生時代が恋しいんじゃないの?」 「いえ、体を動かす職場だと理解したので。というか、むしろ昨日の方が私的にはコスプレ感が」 「そうは言うけどねえ、君も社会人な訳だし。昨日はスーツだったし、ちゃんとした服持ってない訳じゃないんでしょ」 「昨日ダメになりました」 「どうして?」 「赤鬼と遊んだので」 「それもさ、事件報告上がってないんだけど」 「双方怪我が無かったので」 「大体、君の異能行使には上司の承認が必要なんだよね。それを来て早々に無視っていうのは--」 「使ってませんが?」 「--は? だって、木崎くんとタイマンでしょ?」 「タイマンって」 「あの河川敷、夕暮れ時は彼の保護領域だから。目が合って逸らさないとタイマンふっかけられるの。市のハザードマップに書いてあるでしょ。重要だから覚えてって言ったよね」 「街には危険がいっぱいです。帰ってから覚えました」 「その前に問題起こしてるじゃない。っていうか、あれ? 能力使ってないって?」 「だって承認が要るじゃないですか」  嘘は言っていないので堂々と答えると、課長が面倒そうな顔をした。 「正直ウチじゃ持て余すなあ。一係に転属希望出さない?」 「許可がないと力も使えない無能力者を異能殺人犯と対峙させる気ですか」  半目で見ると、係長がすっと視線を逸らした。勝った。 「じゃあ、失礼します」 「服装は考えてよ」 「前向きに検討します」
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