黄昏異能都市

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 空が赤らんでいる。  困った事態になった。渡良瀬と会うことは無かった訳だが。 「何でかなあ」  目の前に四つ腕の赤鬼が立っている。  昨日覚えたハザードマップと現在位置を照らし合わせても会うことの無い相手だ。 「昨日のリベンジとか?」  反応は無い。  昨日の赤鬼ならここで首を縦か横どちらかには振りそうなもの。  上着の小豆ジャージから携帯を出して、係長に連絡を入れる。スピーカーモードにして、ポケットに突っ込み直す。 『どうかした?』 「赤鬼君が既定エリア外に出てくることってありますか?」 『いや、相手を追いかけてじゃないなら前例が無いね』 「朱音商店街の入り口から200mくらい離れた所。あ、商店街西口交差点って信号です。ばったり出くわしたんですが」 『ばったりって、昨日やっぱり何かやらかした?』 「ここは渡良瀬と関連付けて欲しい所!」  怒鳴った所で、赤鬼が一歩で間合いを詰めてくる。昨日より速い。背の豪腕で裏拳を飛ばしてくるのを避ける。空振りした腕が、鈍い音を立てて街灯をへし折った。腕のほうも変な風にねじれているが、構わず避けたこちらに向き直る。 「赤鬼君がちょっとタガ外れてヤバそうなんでさっさと何とかしたいんですが」 『もう少し待ってくれれば、応援が着くから』 「それここにですよね? 渡良瀬を抑えたいんですが! というか、応援が赤鬼君に潰されますよ!」 『そうは言うけど、取り押さえる必要はあるし』 「タガが外れてるって言ってる! 取り押さえるまでにぶっ壊れますよ!」  話している間にも拳が幾度も振るわれる。空振りさせている分には構わないが、打ち下ろし系がまずい。人型の腕も右手は既に潰れている。避けたらコンクリートに腕が刺さって肘の下から折れていた。仕方なく上体を起こして、打ち下ろしの誘発を抑える。 『わかった。わかったよ。異能の使用を許可する。それで解決できる?』 「たぶん!」 『たぶんって。後でこの件の報告資料作成手伝ってもらうからね』 「ちゃんと隣で係長の応援しますから」 『いや、そうじゃなくて資料を--』  許可は取り付けたので通話を切る。  夕暮れ時、昼と夜の間だけ私はヒーローになる。  それが世の中を知らない馬鹿なガキの憧れた幻想だった。  五感が研ぎ澄まされていく。聴覚が拾うのは街中の声、息遣い、心音まで。雑多なノイズを意識的に切り落とすのは訓練の賜物。知っている声音。垂れ流すのは私への恨み言。場所は赤鬼君の居場所になっている河川敷だ。  足を止めた私に、無傷の左腕を使った打ち下ろしが飛んでくる。技術も何もない。パワー任せの一撃。今日はコレばかりで当たる気もないが、今は避ける必要もない。私の手の平より大きな拳を受け止めて、いなすように手を引いて押し止める。  驚きがあったのか、鬼が一瞬止まる。 「ここで暴れるとあんたもまずい。連れてくから」  隙を見逃さずに、鬼が着ているつなぎの腰を掴んで跳び上がる。勢いが放物線の頂上で終わって、落ち始める頃合いで背の低いビルの屋上に。そのまま蹴り上がって、3つ離れたビルへ。河川敷まで一直線に向かっていく。  朱音川に掛かった大きな橋。その足元目掛けて着地する。河川敷にブレーキをかけたらスニーカーが勢いに耐えきれず千切れて壊れた。昨日今日と出費が痛い。  高架下の影に、陰鬱そうな面した奴が一人。俯いてブツブツと何か言っている。こっちは興味が無いので、伝えるべきことを伝える。 「渡良瀬海斗、警告する。異能の使用を停止しろ」 「……化け物。あの鬼をこんな、俺は、こんな奴を相手に、ふざけんな。異常者が。クソ、クソクソ!」 「誰が化け物、異常者だ。言葉を選べ。赤鬼君をこんなにしやがって」  そう言ってつなぎを掴んでいた手を見る。つなぎの一部だけ千切れて手の中に残っていた。 「あ……」  着地の最初。河川敷に降りた位置。地面に鬼が転がっている。 「よくも赤鬼君を!」 「お前がやったんだよ!」  反論は聞かなかった事にして近づく。目は見ない。渡良瀬の異能のトリガーだから。 「どう抑えようかと思ったけど。目を潰せばいいのか」 「何言ってんだ、来るな! 来るなよ! 化け--」  騒がしいのでさっさと黙らせた。拳で。ちゃんと手加減はしてる。  渡良瀬を引きずって、赤鬼君のもとへ。商店街の方で暴れた分以外のが衣装は目立ったものは無いけど、大丈夫だろうか。 「あ、係長。終わりました。河川敷に居るのでお迎えを願いします」
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