黄昏異能都市

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「大丈夫?」  木崎君が病室のベッドで体を起こして迎えてくれた。 「刑事さん、だったんですね」 「そ、異能専門」 「怪我は元の体に戻った時に殆ど。今は大事を取って、ですね」 「そっか。悪かったね」 「いえ。気にしてくれてたのわかりましたから、最後以外」 「そっか。悪かったね」  異能はタガを外す。木崎君が能力を制御出来ないように。私が私を制御できないように。それを忘れてはいけない。 「どうして一昨日は異能を使わなかったんですか」 「制御できないから。本当に必要な時以外、使わないって決めてる」 「あんなに凄いのに」 「ガキの頃は全能感とかに溢れてた訳よ」  でもそれは--。 「代償なんだ。理性のタガが飛ぶ。すぐに周りが見えなくなる。保護対象を地面に叩きつけても気づかない。己の力を振るうことに酔う。それで色々と失敗した」  最初は、そう、夕日を追いかけた時だ。 「異能は夕方限定。で、沈んでく夕日を置い続けたら異能は終わらない。私はずっと無敵。そんな馬鹿な事考えて、広島から千葉まで夕日を追いかけた訳」 「新幹線か何かで?」 「いや走って」  木崎君が控えめに笑ったが、目が引いてた。 「千葉で止まったんだけど、帰る足が無い。野宿して次の日の夕方に帰ろうとしたら、太陽と逆走するもんで一日で帰れず。二日かかった」  京都辺りで泣いたのを覚えてる。 「ヤバいな、って思ったのはさ。日が沈んだ瞬間に夜の中にガキ一人放り出されたことだった。なんにも出来ない。本当に無事に帰れてよかったって今でも思う」  疑問は持った。過信していい力じゃないんだって。  でも使うことを躊躇いはしなかった。 「で、極めつけの失敗。喧嘩の仲裁に入って異能使って相手を殺しかけた」  馬鹿な話だ。異能は安易に振るって良いものじゃない。それを分かってなかった。 「それで鍛え始めた。異能に頼らない自分を作るように」  木崎くんが首を僅かにかしげる。 「昨日は他に手が無かった。で、やっぱり失敗した」 「でも、それで僕は助かりました。街をアレ以上壊さずに済みましたし」 「そうかもしれないけど、頼りたくないってのはわかるでしょ」 「それは、はい」 「この街じゃ、そうも言ってられないかもしれないけどさ」  そう言って思い浮かべるのは街のハザードマップだ。  黄昏時限定の危険地域が両の手で足りないほどに設定されている。
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