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教室の席についていると、どうしてだか眠たくなってしまって、広美は机に突っ伏しては、つい居眠りをしてしまう。
この時も、いつ眠ったのか咄嗟には思い出せないくらいすっかり眠り込んでしまっていた。気づけば窓の外の空が、朱色に染まっている。まるで夜が来ることを拒もうとするかのような、激しい赤色である。
(綺麗だけど……ちょっと怖い)
このくらいの時間帯のことを、逢魔が時って言うんだっけ。広美はそんなことを思い出した。人ならぬものと出会いやすいのだとか。
このことを教えてくれたのは誰だっけ? ああそう、確か--
人の気配がした。
ビクッとして出入口の方を振り返り、広美は胸をなでおろす。
「お父さんか-……もう驚かさないでよ」
「すまない。あんまり遅いから迎えに来たんだが……」
「ああ、ごめんなさい。つい眠っちゃって。待たせちゃった?」
「そうでもないよ。それより悔いを残さないのが一番だ」
「ありがとう。そうね……でももう十分かな」
「……そうか。なら行くか。日が暮れる前に」
「はいお父さん」
広美は差し伸べられた手を取った。
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