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決心が鈍らないようにと、次の日に早速壱吾の家に行った。
ちょうどお母さんが、夕飯のおかずをおすそ分けしたいからというので、私が持っていくことにしたのだ。
こういうおかずの交換は以前ほどではないけれど今も時々あって、山下のおばちゃんが作り過ぎたおかずは壱吾がうちに持ってくることが多い。
呼び鈴を鳴らすと、少しして勢いよくドアが開いた。中から出てきたのは運よく壱吾だ。
目の前に立つ壱吾に焦ってドキドキしながら、唐揚げが山積みされたお皿を渡す。
「今、凪のお母さんから電話あったんだ。唐揚げありがとう」
「あ、あのさ、壱吾」
震えよ、止まれ。
勇気を出すんだ、私!
背中に迫る夕闇に力を借りて、ドキドキとうるさい心臓に魔法をかける。
「今度の土曜日って花火大会じゃん? えっと、あの、一緒に行かない?」
「お、おう。いいよ」
一瞬、壱吾の声がちょっと戸惑ったように上ずった。
でも答えはイエス!
思わず身を乗り出して壱吾の顔を見上げた。
「ほんと!? じゃあ、あの……どうしよう」
どうしよう。
誘う事だけしか考えてなかった。
お祭りってどうするんだっけ。
えっと、えっと。
私が妙に焦っていると、壱吾が噴き出した。
「昼ご飯食べたら俺が迎えに行くからさ、一緒に行こう」
そうだ。まずは時間と待ち合わせ場所だ。
そんな基本的なことにようやく思い至って、自分の焦り具合に笑えてしまう。
少しだけ心臓が落ち着いた。
そうしたら間近にある壱吾の顔がちゃんと認識された。
近い。
私の心臓が、また激しく踊り出す。
慌てて一歩下がって、それから手を振った。
「じゃあ」
「じゃあ土曜日な」
「うん。土曜日ね」
フワフワと地に足がつかない感じで家に帰ったら、玄関先で仕事帰りのお父さんと一緒になった。
「凪、何かあったのか?」
「ううん。べつに」
とりあえずお父さんには内緒だ。
うん。
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