黄昏ハロウィン

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ナイトがここに来るまでの記憶はここに来てからより曖昧だ。 木の葉を捕まえようするが、風が吹いて飛ばされ、どこかへ行ってしまうように掴めない。 しかし、ロッキングチェアに乗ったシルクハットの髑髏に怒鳴られる人生ではなかったはずだ。 「もっと腰を入れろー!」 ナイトは鉈を振り下ろした。 しかし、鉈はかぼちゃにいとも容易く跳ね返される。 「お前、ほんと下手くそだなー」 髑髏が非難の声をあげる。 「「やーい、へたくそ」」 ナイトが顔を上げると、農作業着の兄は鍬を持ち、同じ衣装の妹は汚れたバケツを持って囃し立てる。 ナイトは何も言わずに、再び鉈を振り下ろすが、皮には傷一つ付けられない。 足元には、割れたオレンジ色のかぼちゃが何個かと、何の骨がわからない骨が何本か転がっているというのに。 ナイトはいなくなったあの青白い子供たちを思い出した。 そこに屋敷の主人が黒い日傘をさして歩いてきた。 「諸君、労働は進んでいるか? 秋の夕暮れ前とは言え、日差しが強い。汗をかいたら早めに水分を補給しろよ」 パンプキンはそう言うと、ナイトの額に張り付いた髪をかきあげた。 髑髏は彼女の姿を見咎めて抗議の声をあげた。 「おい、パンプキン。こいつぁダメだぜぇ。鉈を使う才能がないったらありゃしない」 自分は何もしていないことを棚に上げ、髑髏は文句をブーブー垂れた。 パンプキンは日傘を兄に預けると鉈を手にとり、かぼちゃの上に振り上げ、降ろした。かぼちゃは一発で半分になり、その場に転がった。 「おみごと!」 髑髏がカラカラと笑い、兄妹は拍手している。 彼女は鉈の持ち手を返すと、その手をナイトに向けた。 「かぼちゃを切るときは躊躇わない方がいい。今度はちゃんと仕留めろ。 それと、今日はかぼちゃのスープにするはずだ。ちゃんと食べろよ。かぼちゃに含まれるカロテンは風邪をひきにくくするからな」 ナイトはそれを受け取った。それを見て、彼女は優しく笑うと、背を向けて屋敷へと向かっていった。 今、これを振り上げれば、彼女を殺せるだろうか? いや、色鮮やかな内蔵をぶちまけるのは、自分のような気がする。 ナイトがふと足元に目をやると、蟻に食べられていく茶色い毛虫がいた。 毛虫からは白い内蔵が出ており、それを蟻たちは己の顎で切り裂き、運んでいく。毛虫はまだ生きているのか、のたうちまわりながら喰われていく。 「どうして僕のことを心配してくれるんだろう」 質問に髑髏が陽気に答える。 「そりゃ、お前を食うためさ。若いお前のことだ。さぞかしその臓物は鮮やかだろうな。肉も柔らかそうだから、煮込まずとも食べられる肉は実にいい。 心配することはない、お前はきっと立派な料理になる。だが、人間は味気がないだろう。まぁ、それは目潰しコックに任せるか」 髑髏が笑うものだから、また兄妹も一緒になって笑う。 「死んだら、お終いさ」 歌うように、髑髏が言った。それに兄が続く 「そう、食いちぎられて、腐って、土になってお終いさ」 妹は残飯の入った木のバケツをぶちまけた。グミた臭いが鼻をつく。 カタカタカタカタ、骸骨は震えながらいつまでも笑っていた。兄妹も壊れたように笑っている。 黄昏の温かな陽光を浴び、色とりどりの野菜や虫に囲まれているにも関わらず、ナイトは寒気を感じずにはいられなかった。 ナイトはおもわず、パンプキンの後を追う。
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